【種子島の映画】食べるために島を出た母は、生きるために島に戻った。映画:抱擁(Walking with My Mother)

昭和前半に生まれ、出稼ぎで種子島を出て、都会の団地で晩年を迎えようとしている老女。

生活のために夫婦でがむしゃらに働き、いつもとなりに居たはずの夫は、今、病院で死の淵にある。

そして愛する娘は、既に世を去っていた。

一人で過ごす部屋の中で、老女はいくつもの後悔を口にする。

「あの時、もっと夫を大切にしておけば良かった」

「あの時、もっと・・・」

生きる気力が薄れ、自暴自棄になり心身ともに病む老女。

島から夫の葬儀へやってきた老女の妹は、変わり果てた姉の姿を見て、故郷、種子島へと38年ぶりに連れ帰る。

島で待っていたのは、先祖の墓とたくさんの親族、山と海。そしてともに生きると決めた妹の覚悟だった。

愛する人を失った後、人はどう生きるのか

 

この映画は、監督が母親を題材に撮影したドキュメンタリーです。

ナレーションは無く、細かい背景や登場人物の説明もありません。ただただ、映像から状況を読み取っていくタイプの映画です。エンターテイメントでもないし、盛り上がりやドラマ性があるものでもありません。

ただ、一人の老女の生々しく時にグロテスクとも感じられる生活をとらえた映像が、淡々と続く。そういう映画です。

ドキュメンタリーを見慣れていない人はびっくりするかもしれませんが、人が生きていくという、あまりにも当たり前で、それでいて誰もが一度しか経験できないひとつの姿が収められています。

方言が分かると、より細かいニュアンスを感じ取れる

映画抱擁.00_のコピー

渋谷で見たバージョンは方言に日本語字幕付きだったのですが、全ての会話が字幕になっているわけではありませんでした。

字幕になっていない方言の会話も各所にあり、かつ字幕そのものも、誰が見てもわかりやすいように、意訳になっています。

ですので、あの会話の中身からニュアンスを正確に理解できるのは、種子島弁が分かる人だけだと思います。方言が分かるか分からないかで、すこし印象が異なるかもしれませんね。

また、ドキュメンタリーなので当然といえば当然なのですが、作中に出てくる種子島は、昭和世代のリアルな種子島です。

歓迎で食べ物を持ち寄り、法事では坊さんが冗談を言い、腹立たしいことには癇癪を起こす、そういう種子島です。

僕の母親もそういう世代なので、老女の語り口や妹の切り返しには、母を見ているようで不思議と涙が滲みました。

「かあちゃん。おいも、ちゃんと、生きるからな。」

そう思わせてくれる、不思議な映画です。

東京、大阪、名古屋、鹿児島にて順次上映

2015/6/12まで渋谷で上映されたあと、各地で上映されるようです。
鹿児島でも上映されるようですので、上映の詳細については、作品ホームページにてご確認を。

抱擁 公式ホームページ
http://www.houyomovie.com/

2015年4月25日(土)~ シアター・イメージフォーラム(東京・渋谷)
http://www.imageforum.co.jp/theatre/
上映中 ~ 6/12(金)まで  10:30
※英語字幕入り上映となります

2015年6月13日(土)~ シネ・ヌーヴォ(大阪)
http://www.cinenouveau.com/
6/13(土)~6/19(金)10:40/20:20
6/20(土)~6/26(金)10:20
6/27(土)~7/3(金)10:20

7/4(土)~シネ・ヌーヴォXにて上映
7/4(土)~7/10(金)13:30

2015年7月18日(土)~24日(金)ガーデンズシネマ(鹿児島)
http://kagocine.net/

2015年7月25日(土)~31日(金)名古屋シネマテーク(愛知)
10:40
http://cineaste.jp/

ほか全国順次公開予定